竹のスペイロッド
これを作ろうとすると色々な問題が多発します。
ModernBambooSpeyの開発には相当な年数が掛かりました。
試作品も何十本も作っています。
ここまでの取り組みをやった事のある日本のバンブーフライロッドビルダーはいないのでは?
と、私はそう思っています。
竹のスペイロッドを作ってフィールドに持ち出し実際の釣りに使うと
とにかく折れます壊れます、
噂に聞いた話ではアマチュアビルダーの方が竹のスペイロッドを作り
釣り場に持って行ったところ最初の一振りでへし折れた
などという話も聞きます。
私の試作品でどのような問題が起きたかというと、
まず、シャフトが折れます。
折れるのは下のフェルールの下側、
ここが折れます。
さらにピンポイントで言うと
下のフェルールのシャフトとフェルールの境目
ここで折れることが多いです。
スペイロッドはバット側に大きな力が掛かるロッドなので、
一番にストレスがかかるのは下のフェルールの下側、ここになります。
次に起きたのは、節が割れます
曲がりに耐えられず節が裂けます。
スペイロッドはキャストの際に相当にしなります。
シャフトの対面幅も大きくなるので
これだけしなると竹の表面は相当な伸び率になります。
節の部分がこの伸びに耐えられないのです。
あとはネジレの発生により起きるトラブル
スペイキャストの際に竿が大きくネジレてしまいます。
節がこのネジレに耐えられずに縦に割れます。
節以外の場所もネジレに耐えられずに接着面が剥離したり
接着剤を剥離強度の高いものに変えても
今度は竹そのものが縦に割れたりします。
カーボンロッドは重量が軽いのでそれほどのネジレは発生しないのですが
竹は重量があり低反発でしなやかなので大きくネジレます。
このネジレに竹のシャフトが耐えられないのです、
そして、このシャフトのネジレ、
釣り場でも問題を発生します。
実際の釣りに使うと
シャフトがネジレるために釣れるキャストにならないのです。
桜鱒のフライフィッシングに取り組んだことのある人ならわかると思いますが
釣れるキャスト、わかりますよね!
これにならないのです。
シャフトのネジレのためにキャストのパワーがティップの先端までしっかりと伝わらない
結果としてキャストしたフライライン、リーダー、ティペット、の着水を
しっかりとコントロールできないのです。
風に負ける、グチャッと落ちる、狙ったところにフライが入らない、などなど、
釣りをしていてとてもイライラします。
川でキャストをするたびにア"ー!と唸ってしまいます。
こうじゃねーんだよ!これじゃ釣れねー!って、
あとは、竿の重量による釣り師の体の疲労、
数日間、連続で釣りをすると、リトリーブの際に竿を支えている側の腕が痛くなり
竿を持つのが苦痛以外のなにものでもなくなってきます。
ティップが下に落ちようとする重さを持ち手で支え続けて釣りするのですが、これが苦痛になってくる
結果として、集中力がなくなって釣りが雑になる
さらには竿を持つのが嫌になり、釣りをするにしても短時間でやめてしまうようになる
釣れない要素の悪循環が始まってしまいます。
あと、竿の重量による弊害が、
キャストの際に竿にパワーを加えるとティップは大きく遅れてついてきます。
そして竿を振り切ってストップした時にグワンッと大きくしなります。
竿がピタッっと止まらないのですね、
これにより竿がヘシ折れたり、釣りの際に体に大きく負担が掛かったり、
キャストのアキュラシー性能が落ちたり、
色々な弊害が発生します。
これらの問題をいかにして解決するか?
少なくとも、商品として売るからには、簡単に壊れてしまうような竿であってはならない
それをクリアーしないといけない
まず行ったのがグリップエンドに金属を埋め込みバランサーにすること
これによって、リールを取り付けて竿を手に持った時に
上手のところで竿を掌に載せただけでバランスするようにしました。
このようになるように、リールの重量、バランサーの重量、を加味した時にバランスするようにグリップの長さもデザイン
これによりランニングラインをリトリーブする際には手で竿先の重さを支える必要がなくなり、
竿を握った手の指に軽く載せているだけで良くなり、腕への負担を大きく減らすことに成功、
結果として長時間の釣りをする際の体への負担が大きく減り、
結果として魚を釣ることの出来る確率を大きく上げることに成功しました。
次にはフェルールの境目の補強
フェルールと竹のシャフトの境目にFRPで積層をして局部的にストレスが掛からないようにしました、
FRPは金属のフェルールと違ってしなります。オオムラロッドの特徴であるカーボンフェルールも微妙にしなります。
結果としてフェルールの際でのシャフトの破損は解決しました。
もちろん、フェルールの近辺に大きなストレスが掛からないように竿のテーパーも工夫をしました。
あとは節が割れる裂ける、このトラブル、
バンブーフライロッドはウイークポイントである節を
ギャリソンノードやスリースタックノードなどのように節をバラバラに散らすことによって、
節が隣り合わないようにして、破損のリスクを減らす、という方法をとっています。
スペイロッドの場合はこの方法では強度が不足してしまいます。
どうすればよいかを毎日考えていた時に
あるときアイデアがフッと湧いてきました
節をずらすという方法を辞めればよいのだ!
逆転の発想ですね、
節を一カ所にまとめてしまい、表面をFRPで補強してしまう、
これは上手くいきました、節の破損のトラブルはこれで解消
あとはネジレの問題です。
これは竹竿を作っているときにアイデアが湧いてきました。
シャフトの接着の際にバインダーコードでグルグル巻きにするのですが、
そのバインディングしたシャフトを見ていて、これだ!と閃きました。
スレッドをシャフトに螺旋状に巻き付ければよいのだ、
そう閃きました、
この螺旋状のラッピングをした試作品を持って川に行ったときに
その性能の差に驚き愕然としました。
竿のネジレを取り除いただけでこんなに竿の性能が上がるのだ!
と、非常に驚きました。
竿のテーパーは全く変えていません、それなのにです。
キャストがスパッ!スパッ!スパッ!と決まる、釣れるキャストになっているのですね、
風に負けない、リーダーのコントロールが決まる、
一番に大きな違いはアキュラシー性能、これが大きく変わった、
狙ったところにフライがスパンッと入るようになりました。
これだ、これなら釣れる!そう思える竿に変化していました。
螺旋状のラッピングをしただけで、テーパーも竿の構造も他は何も変えていません
なのに全く別の竿に変身した。
釣竿にとってネジレによるパワーロスってのは相当なものなのですね、
それを痛感しました。
この螺旋状のラッピングはもう一つの問題も解決しました。
このラッピング、45度にするか?30度にするか?を悩んで、30度にしました。
これが良い結果を生み出しました。
キャストの際の竿のしなり過ぎを抑制する効果を発揮しました。
結果として竿の破損リスクが大きく減った。
シャフトのネジレを抑えることに成功したおかげで
シャフトが縦に割れる、接着面が剥離する、などのトラブルも解決することに成功
これらのことを経て
ModernBambooSpeyシリーズ
実際の釣りにガンガン使える竿として発売する、
ここに到達することができました。
竹のスペイロッド
私が行った方法の他にシッカリと強度を確保し
実釣性能の高い竿を作る方法が他にもあるのかもしれません、
皆さんも是非竹のスペイロッド製作に取り組んで
私にその方法があったか???
って、唸らせる竿を作って私に見せてください、
創意工夫をすること
それが物作りの楽しさ、
そう思います。
2024年11月22日
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