二尺山女 その1
 
もともとは稚魚放流の山女か何かなのかもしれませんが、
それが銀化して川を下り
外洋に旅立ち
数々の危険をかいくぐり必死の思いで生き延びて
春に故郷の川である閉伊川に戻って来る、

なかには自然再生産したサクラ鱒も数は少ないですが存在するでしょう


サクラ鱒は気まぐれで不可思議な行動をします。
外洋を旅してきた鱒は狡猾さを増し気難しい魚になります。
釣り師は惑わされ困惑します。
そして、心を奪われる、

そのサクラ鱒にフライフィッシングで挑む
確率良くサクラ鱒を釣る方法は他にいくらでもあるのに、あえて、
困難と言われている難易度の高いフライフィッシングで挑む、

それは相手であるサクラ鱒の尊厳を尊重するからであり
サクラ鱒に対しての敬意の現れでもある、

(2021年 2月)
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2005年6月1日
閉伊川の桜鱒
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【稚魚放流の山女だったのかもしれません、
稚魚放流、
それは人間の手によって人口的に作り出され、大量生産された生き物です。
それでも感情があり心を持っていて、魂がやどります。
一尾一尾、性格も違う、】
 
【私は養殖魚は綾波みたいなものなんだと考えるようになりました。そう思うようにした、】
 
秋田県のサクラ鱒が未だ6月1日解禁だった頃のお話です。

5月の最終日、
何時も桜狙いのルアーマンでごったがえしている閉伊川の本流が
この日はがらがらに空いていました。
皆さん秋田に行っているのですね!

夕方16時頃
自分でブランクから組み立てた9フィート6番のシングルハンドに
シューティングヘッドと言うタックルを持って閉伊の本流に行きました。

川についてみると大型のストーンフライが大量ハッチしていました。

川の真ん中くらいまでディープウエーディングして
シューティングヘッドを対岸のテトラの際にキャスティング、
フライはジャイアントストーンが出ていると言う事もあり
大きめのシルバーマーチブラウンを選びました。

狙いは本流の大型山女、

斜め下流にキャストしてフライが沈み
スイング、
そしてリトリーブ

そしてステップダウン、

これの繰り返し

この辺が怪しいな?
と、思う所に差し掛かり

丁寧にキャスト
そして、スイング、

すると、

モワン???

と言う感触
フライが大きな口に入ってフッキングしなかった感触です。

サクラ???

心が高鳴りました。

もう一度、と、思い、
上流に5メートルくらい戻り
今のところをもう一度フライを流してみました。
何も起きません、

もう一度、もう一度、
と何度も後戻りをしてキャストをするも
何も起きず、



翌日の6月1日16時
また、同じポイントに来ました。

この日は杉坂ネットを用意してきたのですが、
車を離れる時に
シングルハンドで釣りするのに
巨大なネットを背中にぶら下げるのが恥ずかしくて
結局、杉坂ネットは車に置いて釣り場に向かいました。

河原についてみると
昨日と同じようにジャイアントストーンがスーパーハッチしています。

昨日と同じラインシステム
同じフライ
同じ立ち位置で
釣りをスタート

斜め下流にキャストしてステップダウンの繰り返し

そろそろだな!この辺が怪しいな!
昨日はここだった!
と言う所に差し掛かりました。

慎重に、丁寧に丁寧にキャスト
フライはキッチリとテトラの際に着水、
ラインが水になじみフライが沈み
スイング開始
すると

ゴン!グングン!
という感触が手元に!

見事にフッキング

すると、サクラマスが水面に出てゴロンゴロンとローリング、

フックはバーブを潰してあります。
ヤバイ!

糸を緩めます。

手元に残っていたラインが全部出て行きリールファイトに移ります。

何分間ファイトしただろう?
足元にサクラ鱒が寄って来ました。

背中の模様がヤマメと同じです。
間違いない、
サクラです。

しまった、ネットを持ってきてない?
気持ちの動揺が相手に伝わり
鱒が沖に向かってダッシュ!
またラインが出て行きます。

数分後
鱒が足元によって来ました。

動揺するとまた魚に逃げられるので
覚悟を決めて
鱒のお腹の下に手をそっと入れて
一気に鱒を岸に放り上げました。

桜鱒が河原の小石の上でドタンバタンとのたうっています。

釣れた!本当に釣れた!
しばらくの間、河原で一人、放心状態でした。

ちなみに、私、ルアーが下手くそなので
ルアーで桜鱒を釣った事がありません、
この桜鱒が人生初めてのサクラ鱒でした。
 
秋田県のサクラ鱒の解禁が6月だった頃の閉伊川の4月
流れは雪代で増水

その日は仕事を終えてから夕方に狙っていたポイントに行きました。

そこは左岸にテトラが入っていて桜鱒はテトラの際についています。

右岸にウエーディングしてキャストするのですが
岸がえぐれていて足元からすぐ腰までの深さがあります。
ウエーディングして釣りをする時のバックスペースは1Mあるかないか、
バックスペースがないので右手でダブルスペイは出来ません、
左手でシングルスペイをするポイントです。

ポイントについて川を眺めて
これは、釣れる!
と、直感的に感じました。

上流側から川に入り
対岸のテトラの際に左手でキャスト
前には出れません、前に出たら雪代で増水した川に流される、

キャストしては下流にステップダウン
下流に下ると、だんだん深くなって行きます。

もうこれ以上は下れないなと言う所まで来ました。
その場に立ち止って
ワンキャストごとにランニングラインを50センチくらい伸ばす、
と言うやり方をしました。

数キャスト後にスイングするフライに
ドス!
と言う感触
ゴンゴンゴン!
と、魚が首を振る感触が手元に伝わって来ました。

その日はインスタントネットを腰につけて釣りをしていたのですが、
手元に魚が寄って来たときに
魚の姿を見て
デカイ!
これではネットに入らない!

周りを見渡すと岸がえぐれている所があります。
ここだ!と思い
魚を岸のえぐれに誘導
魚をネットで岸に押し付けて挟み込んで
後は手で押さえつけました。

無事にランディング
メジャーを当てると68センチありました。

写真を撮ってリリースを済まして
ポイントを見ると
まだ居るな!キャストをすれば釣れる!
と直感的に思いました。

待て待て、そんなに欲張るな!
相手は生き物、無意味に多くの魚を傷付けてはいけない、

一尾で十分ではないか、

そう思い、その日は釣りを終了

自宅に帰って写真を見てニタニタしながら、お酒を飲みました。
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【閉伊川でのサクラ鱒のフライフィッシング】

閉伊川の中流部と下流部の特徴は、
要するに桜鱒の釣り場の特徴は、

川の横を国道106号が通っているのですが
道路と川の構造上の都合で
川に降りる事が不可能な部分が多いと言う事だと思います。

それは何を意味するかと言うと
釣り不可能な竿抜けの区間が多いと言う事です。

おそらくその区間では秋まで桜鱒が生き残り
本流山女とペアリングをして
自然産卵をしているサクラ鱒もかなり存在する物と思われます。

また上流部などに放流した養殖の山女が台風などの大水が出た際に流されて
この竿抜けの部分で伸び伸びと暮らしているかもしれません


また、
秋田県や山形県などの日本海側のサクラ鱒の川との違いは
川の流域に大きな町が無いと言うのと
北上山地の中を流れる川なので
比較的に流れが速い、大きな渓流みたいな感じで
日本海側の川のように周りに広大な田んぼが無いと言う事です。

大きな町が無いので水が綺麗です。
生活排水は殆ど流れ込んでいません、

日本海側の川でサクラ鱒の釣りをしていると
田んぼの水の影響をかなり受けます。

例えばにわか雨が降った時に
日本海側の川だと田んぼの水が川に流れ込み
逆に水温が上がったりします。

閉伊川ではそのような事が起きません、


閉伊川のサクラ鱒の魚影は日本海側の川程多くはありません
そのかわり川には水生昆虫も豊富でハッチに連動したサクラ鱒の釣りが出来るとか
水が綺麗で、雨や風、太陽の光などの変化に対して魚が自然な反応をするとか、

他の川にはない魅力があると思います。

(2021年 2月)
 
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